狂乱の宴

『犯罪係数アンダー62、執行対象ではありません。トリガーをロックします』
「え? ……嘘、どうして!?」
 常守朱は自分の脳が聞いた言葉を信じられなかった。再び両手にしたドミネーターを構えるも、目の前に立つ男たちの犯罪係数は皆総じて同じく、執行対象とは認められなかった。
 ロックされるドミネーターを振り回す朱の眼前に居る男たち、ざっと見積もって十人は居るだろうか。その男たちは全員、頭にヘルメットを付けていた。顔が見えない為、男と判断したのはその服装と体格による判断だ。全員が全員、黒いトレーナーにジーパンのシンプルな出で立ちである。個を感じられないというだけでも不気味であるというのに、更に彼らはそれぞれ金属バットや、鉄パイプや、酷い者は露骨に刃物を手にしていた。物騒なそれらは、紅黒い液体で染まっている。
 昨日から横行しているヘルメット集団による犯罪。彼らがその一員であることは間違いなかったが、それにしても不可解だった。自らの犯罪を隠すこともなく晒している彼らが、何故摘発されないのか。ドローンに引っ掛からないのは、そして、朱が震える手で構えたドミネーターが反応しないのは、何故なのか。
「っあ、あなたたち……手を上げなさい! う、撃つわよ!?」
 脅しをかけてみるも、男たちが怯む気配はない。寧ろ朱にあからさまな敵意を向けて来ていた。まるでドミネーターが動作しないことを知っているかのように。
(……っ何でこんな時に狡噛さんも縢くんも居ないの……? ってはぐれたのは私だけど……)
 各地で起こっている暴動に追われ、公安局の面々は全員出動している。朱も狡噛、縢と班を組んで市街地を回っていた所だった。
 地区を挟んで随所で起こった殺人、強盗、暴行、強姦、ありとあらゆる人の欲を体現したかのような犯罪が横行し、止めるべく右往左往させられる内に朱は狡噛とも縢ともはぐれてしまった。
 まさかそのタイミングで、マンションから出て来た犯罪集団に行き合うとは思っていなかった。手にしたそれらは明らかに他者を害した証である。それなのに、ドローンは反応を見せず、ドミネーターも同様に彼らの犯罪係数を測ろうとはしてくれなかった。
(どうして……どうして反応しないの!? まさか、この人たちも槙島と同じような……そんな、そんなことって有り得るの!?)
 かつて直面した犯罪者の顔が頭に浮かぶ。槙島聖護、ドミネーターによる正義の執行の及ばない相手。そして、彼に殺された朱の友人の――
 その凄惨な最期を思い起こし、瞬間、朱の注意が逸れる。犯罪に手を染めて嬉々としている連中が、その隙を見逃す筈がなかった。

 気付けば眼前に振りかぶられたバットが迫っていた。
 咄嗟の反射で上げた両腕で顔面を庇うも、弾き飛ばされたドミネーターは弾かれ地面を転がって行った。腕が痺れている。怯んだ朱に背後から迫る鉄パイプを防ぐ術はなかった。


「……っぅ、ん……痛……っていうか、寒……あれ、私……?」
 意識を取り戻した朱が最初に知覚したのは後頭部の痛みだった。鈍痛と共に首筋に流れるものを感じる。流血の程度を確かめようとする腕は、しかし朱の思い通りにはならなかった。
「っ何……縛られ……っきゃ!?」
 後ろ手に手首を縛られているのだと、気付くと同時に、朱は己の服が引き裂かれているのを発見せざるを得なかった。道理で寒い訳だ。ジャケットのボタンが弾け飛び、その下のワイシャツも無残に破かれていた。隙間から見える使い古した色気のないブラジャーに少なからず赤面する気持ちはあったものの、そんな悠長なことを考えていられる局面ではなさそうだった。
「……っひ、……あっ、あなたたち……こ、こんなことして良いと思ってるんですか?」
 先刻朱を襲ったと思しき男たちが、眼前に佇んでいる。震え声で訴えるも、メットの下の男たちの表情は読めない。無表情で見下ろす男たちに、地面にへたり込んだ朱は背筋が凍るのを抑えられなかった。これまでにも幾度となく監視官として生命の危機に直面したことはある。それでも今この現状は、どう足掻こうとも絶望の予感しかしなかった。
(狡噛さんの言っていた通り、これが全て槙島の仕業なのだとしたら……この人たちに何を言っても無意味なの……?)
 それでも朱に出来るのは説得だけだ。視界の端で探してみても、ドミネーターは何処に転がっているか見当たらない。
 服を剥かれ、両腕を拘束され、地面に転がされている。ストッキングが擦れて破れ剥き出しになった脹脛がコンクリートに擦れて痛い。寄る辺のない朱が苦しい体勢で更に言葉を募らせようとした途端、一番近くに立っていた男が短い彼女の髪の毛を掴んでその身体を引き上げた。
 思わず朱は悲鳴を上げる。殴られた後頭部が引っ張られて新たな血を流している感触があった。それを確かめようにも、頭を掴まれた朱は身動きが取れない。頭痛で意識が朦朧とする。濁る視界に、無情に寄って来る男たちが映った。
「っ痛……や、やめてくださ……っひぃっ!?」
 抗議しかけた朱の前で、男たちはズボンのチャックを下し始める。その下から取り出された勃起を目にし、朱の頬が引き攣る。朱は異性と付き合ったことがない。勿論性を交わしたこともなく、これまで男のペニスを目にする機会などなかった。赤黒く染まったそれらは、大小長短、皮を被っているものから既に期待のカウパー液でてらてら光っているものまで様々である。多種なその有り様に、嫌悪を抱きながらも朱は食い入るように見つめてしまっていた。
「……っはは、何だ何だ、公安局といえど所詮女だな」
「男のチンポに興味津々ってか? これだから雌って奴は」
 くぐもった声で目の前に立つ二人の男たちが小馬鹿にしたような口調で言う。その度に周囲に群がる男どもが同意するかにさざめき笑うのが腹立たしかった。
「っち、ちがいま……ッむぐぅ!?」
「へへっ、そんなに欲しいならくれてやるよ、歯ぁ立てるんじゃねぇぞ」
 背後に立つ男が朱の躯を強引に膝立ちに固定させる。髪の毛を掴まれ後ろに引かれれば、自然口が開いた状態になる。
 その口腔内に無理矢理、目の前に立つ男のペニスが突っ込まれた。
「おらぁっ、しっかり味わえよ?」
「はははっ、白目剥いちゃってらぁ」
 行き成り喉奥まで剛直を突き立てられ、呼吸も儘ならず朱は呻く。いっそ噛んでやろうと思うも、口一杯に頬張らされた極太のペニスに呼吸さえ満足に出来ない状態では、抵抗の仕様もなかった。
「……っうぅ……ぐっぅ、むぅ……」
 生臭い味が口の中に広がる。酷い吐き気がした。朱が涙目で見上げる先、ヘルメットに覆われた男たちの表情は分からない。しかし愉悦に浸っている様子は、口の中で一層膨らんだ肉棒と降りかかる嘲笑から読み取れた。
 男が激しく腰を振り、その度に喉奥を容赦なく突かれる。背後の男が頭を掴み前後に揺するものだから、更に咽喉の深くまで亀頭が擦り付けられ、止めようもなく涙と涎が溢れた。
「っおい、さっさとしろよ! 後がつかえてるんだからよ!!」
「……あ? ああ、もっと楽しみてぇのに……仕方ねぇ、な!!」
 周囲の連中に詰られ、朱の口に突っ込んでいる男が舌打ちしながら、一層深く喉奥を犯す。
「ひっぐぅッ……ん、っぐ、ふむぅっ!?」
「……っし、出すぞ!」
 男が言うや否や、どぴゅりと口腔に吐き出されるものがある。それが精液であると、知識は持ち合わせていたものの、無論朱は目にしたことも口に出されたこともない。
 生臭く何処かしょっぱい。勢いの良い射精は朱の躯を内部から穢していく。気持ちが悪い。咳き込む朱の口から男の肉棒と大量の精液が吐き出された。
「ッゲホ、くふ、……か、っは……」
「っち、糞が……吐いてんじゃねーよ」
「しょーがねぇなあ、朱ちゃんは……ちゃんと飲み込まないと、酷いことになっちゃうよ?」
 萎えた肉棒を引き抜いた男が悪態を吐くも、その後ろから別の男が手を伸ばして来て、朱の頬を掌で包んだ。
 両側から頬を狭められ、未だ口の中に残っていた残滓が朱の意に背いて食道へと流れ込んで来る。酷い味を意識するよりも、男の精を強引に呑まされたという事実が朱を打ちのめしていた。

 同じメットを被り同じような風体をした男たちは区別が付かない。その中で頬を掴んだ男は実に軽い口調で話しかけて来る。反対の手には、何時の間に内ポケットから取ったのだろう、警察手帳が握られていた。
「公安局刑事課一係の刑事さん……ご立派なものだね。将来を約束された監視官様が、俺らみたいな明日も知れない底辺野郎どもに良いようにされるなんて、胸がすくと思わない?」
「お前、完全にそれ私怨じゃねーか」
「うるせ……ってな訳で、今からエリート監視官の常守朱ちゃんの公開レイプ入りま―す」
 飽く迄も明るい口調で言う男の不気味さに、朱の背筋が粟立った。必死に身を捩ろうとするも、拘束された手も掴まれた頭も頬も、びくとも動いてはくれない。
「おい、ちゃんと録画しとけよ」
「っつーか、既に配信してるっての……見ろよこのコメント数、すげぇすげぇ……閲覧ランキング既に上位だしよ」
「っはは、やっぱ皆無能な公安様にはうんざりってか。それでこそヤリ甲斐もあるってもんだぜ」
 何時しか周囲の男たちが携帯端末を手に手に、朱に対して向けている。彼らの言葉を鑑みるまでもなく、映像が全世界に向けて配信されているのは想像に難くなかった。
「いや……やだ、やめてっ!」
「は〜い、抵抗しないの。じゃ、俺からイッていいか?」
「は? 何抜け駆けしようとしてんだよ」
「まぁまあ、後でちゃんと輪姦してやるからよ」
 へらへらとした口調で言う男は、朱の頬から手を離し、投げ捨てた手帳には見向きもせずに剥き出しの自身を扱き出した。ごしごしと強く擦る度に、膨らんだ亀頭から飛び散る先走りが朱の顔を汚す。
「ほら、ちゃんと後ろから支えてろって」
「へいへい……っおらよ!」
 背後に立つ男が髪の毛を離し、朱を羽交い締めにする。脇の下から支えられ無理に立たされた朱は、必死の思いで脚をばたつかせ足掻いてみるも、両側から二人の男に足首を掴まれ、更には大事な部分が丸見えになる程に割り開かれてしまう。危機感よりも羞恥で身が焦がれそうだった。
「さ〜て、御開帳〜ってね」
「うっし、ばっちり撮れてんぜ……監視官様の生マンコが全世界配信とか、これ何て胸熱?」
 幾ら嫌だ、やめてと叫んでも無意味だった。朱のストッキングは無残に裂かれ、その下のショーツまでも引き千切られてしまった。左右から無数に湧いてくる手がブラジャーからはみ出た胸を揉みしだき、顕わになった女陰を指で割り開く。
「あーあ、雌臭いにおいプンプンさせてやがる」
「っつーか、しょんべん臭くね?」
「朱ちゃん、もしかしておもらししちゃった?」
 肉体に受けるのもそうだが、次々と投げかけられる侮蔑の言葉に朱は唇を震わせる。酷い恥辱だった。泣くものか、と思っても、頭痛に朦朧とした頭では自制も難しい。女としての屈辱的な姿を、ぼろぼろと涙を零してぐしゃぐしゃになった顔を、全国の人間に見られているのだ。もしかしたら公安局の人間にも――普段の朱を知る彼らにも、これは見られているのかも知れなかった。
「かわいそーに……さぁて、挿れるか」
「全然可哀そうとか思ってないだろお前。ヤんならさっさとして、さっさと回せ」
「あーもぉ、折角その気になってるんだから、余計な口出しすんなって」
 朱の前で軽薄な笑みを浮かべ自身を扱いていた男は、軽く舌打ちをしながらも、何処か愉しげな様子を隠そうともしない。笑いながら周囲の男たちが割り開く陰部に張りつめた怒張が押し当てられた。
(……っや、嫌だ、こんなの……っ助けて、狡噛さん……ッ!!)
 痛切な願いも叶うことはない。シビュラというシステムに管理されたこの世界は、既に神頼みという概念すらなくなった。救いはない。
 未だ誰にも開かれたことのない朱の内部へ、容易く男のペニスが侵入して来る。両側から無数の指が陰唇を割り開いて挿入を助けていた。しかし容易く入り込んで来るのと裏腹に、それに伴う痛みは耐え難いものだった。
「――っ痛……ッッあ、いっ、っつ……ぅ」
 躯を刺し貫かれる苦痛に朱は目を見開き、掠れた呼吸を漏らす。相手を拒むが如く緩まることを知らない割れ目からは、どろどろとした血液が流れ出、陰茎に纏わりついていた。
「うっは、朱ちゃん処女だったのかぁ〜。道理できつきつな訳だよ……あー、気持ち良い」
 へこへこと男が腰を動かし快楽を貪る。その分朱に与えられるのは屈辱と激痛だけだった。
「あー、もう我慢出来ねぇ…おい、俺らも混ぜろ」
「へへ、俺は口を頂くぜ」
「あっ、ずりぃ……しゃーねぇ、手で我慢するか……ほら監視官様、上手にシコシコして下さいねぇ」
 周囲の人間に煽られ、朱の肉体は冷たい地面に転がされる。下半身は征服されたまま、更に次々と差し出される欲望が朱の全身を侵していく。
「ふぐっ……っむぅ、うぅ……ッ!」
 口の中に突っ込まれたそれは、先刻のものより小ぶりで少なくとも呼吸が出来る。隙間からダラダラと唾液が零れ落ち、男の腰が前後する度にぶちゅりぶちゅりと音がするのが堪らなく厭らしく思えてならなかった。
 横から突き出された肉棒が朱のたわわな乳房に押し付けられる。逃げ出そうと身を捩った先、振り回そうとした手がぬめるペニスを掴んだ瞬間、朱は声にならない悲鳴を上げた。
「……ッンーっ、ぅうう、むぅ……っひゅぐぅ……っ!!」
「あー、その苦しそうな顔、たまんねぇな……」
「やば、何だこの締め付け……朱ちゃん、もしかして感じちゃってる? いいね、そんな物欲しげにされたら、種付けしたくなっちゃうじゃないの」
「っむふぅ!? んーっ、んむぅぅっ!!」
(ダメ、やだっ、中は……今日は危険日なのに!?)
 朱の全身は複数の男たちに犯されて身動きが出来ない。震える彼女の視界の端、あぶれた男たちでさえも下半身を露出し、自身を扱いている。
 悪夢のような狂乱に、しかし今更終止符など訪れようもない。
「うっは、監視官様が悲鳴上げるとめっさ気持ち良い……あー、出る出る」
「っしゃあ、中に出すぞ……朱ちゃん、孕む? 孕んじゃう?」
「っひぅ、ぐむ、や……っむぅぅ、んぬぅっ!!?」
 男たちの顔が醜悪に歪むのは最早涙に霞んだ目には映らなかった。一層深く腰が入れられ、子宮口を押し上げる。目を剥いて絶叫する朱の口の中で、膨らんだ男根がその欲望を吐き出した。
 再び味わう生温さに吐き気を催す間もなく、強く強く膣内へ押し付けられたペニスからも勢い良く精液が発射されていた。
「んぶぅッ、げふっ、……っひ、ぃやっ、嫌だッ、抜いて……っ!!」
「ははっ、今更抜いても無意味だって……ま、いいけど」
 朱の口と下半身を犯していた男たちは、達して満足したのか執着も見せず朱から離れる。上から下から、濃厚な白濁が内部から流れ出る。放心する朱に、しかし無情にもそれまで周りで取り巻いていた男たちが寄って来た。
「くっそ、たっぷり出しやがって……後からヤる身にもなってみろ、気持ち悪い」
「とかいって、挿れる気満々だろ? あー、じゃあ俺は、後ろ使わせて貰うか」
「……ぁ……い、や……」
 無防備な朱の顔に体に、次々と絶頂を迎える男たちから白濁が降り注ぐ。汚された全身は力も抜けだらりと無気力に、されるが儘となっていた。液体に塗れた朱の躯を男たちは軽く担ぎ上げ、再び局部に熱い楔が埋め込まれる。前から犯され、更には背後から忍び寄った男が後ろの孔までも貫こうとしていた。
「っそ、こは……ちがう、のに……だ、め……」
 泣き叫ぶ気力もなくアナルに硬い亀頭がめり込んで来るのを享受するしかない。みちみちときつい肛門までも暴かれ、前後を抜き差しされる衝撃に身体が繰り返しずり上がった。


「ほーら、朱ちゃん、皆が見てるよ? 笑って笑って」
「……ふ……ぇ?」
 体中を犯し抜かれながら、横から掛けられた声に朱は虚ろな目を向ける。その先、男の一人が手にしたタブレット型の端末は、液晶画面が朱に向けられている。カメラが付いているタイプなのだろう、高画質のそこには、抽挿を続けられている朱の、淫らな姿が映し出されていた。
「あ……っぁ、は……あっは、はっぁ……」
「あーぁ、監視官様壊れちゃったじゃねーか」
「しょーがないなぁ……じゃあ、朱ちゃん、最後にピースしよっか? ほら、ダブルピース」
 折れることを知らなかった朱の精神が、今や崩壊に瀕していた。壊れた笑みを浮かべる朱は言われるがままに両手を差し出す。
 突き出された画面には、全身精液塗れで幾人もの男たちに犯されながら、引き攣った笑顔を浮かべ両手でピースをしている、惨めな女の姿が映っていた。


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