First contact

「ふむ……面白い、実に面白いものだな、ジュード?」
「いや……僕には解らないけどね?」
「こうして触っているだけで、身体の一部が膨らんでくるなんてな……人間とは面白いものだ」
「人間、というか、こうなるのは男だけだけど……ってミラ、顔近付けないで、息が……」
「なあジュード、舐めてみてもいいか?」
「っな、……っ舐め!? ちょ、ミラ! ミラ、待って!!」
 自らの股間に蹲るミラに、ジュードは大慌てで制止を掛ける。うん? と小首を傾げるミラの表情は何時もながら整った綺麗な顔立ちをしていたが、己の勃起越しに見るものではない。
 再確認するジュードの前で、しかし意に介さぬミラはベッドにうつ伏せのまま愉しげに脚をぱたぱたさせている。医療ジンテクスは付けたままだから、それなりに痛みは続いている筈なのに、それを好奇心が軽く凌駕しているらしい。
「構わないだろう? 人間の男はそうされると悦ぶと、先日呼んだ本に書いてあった」
「……っだから、何の本読んでるのさ……って、本当にやばい……っ」
 宿のベッドは然程の広さはない。下半身に密着したミラがペニスに舌を伸ばすのを見て、本気で慌てたジュードはミラの額を掴んだ。
「…っん、むぅ……なにをふる、ふゅーど?」
「いやいやミラ、冷静になってよ。何でこんなこと……」
「うん? 何でだろうな、先刻までアルヴィンに借りた書物を読んでいたのだが……」
 十中八九それは十八禁に分類されるものだろう。嘆息しながらジュードは頭上を仰いだ。シャン・ドゥの宿屋で、ミラは特別に一人部屋を与えられている。普段ならば女性陣、男性陣と分かれて二部屋取り節約に努めている彼らだが、今はミラの体調を考慮し一人部屋にしておいたのだ。その弊害、という訳ではないが、こうして夜な夜な暇を持て余したミラが男たちを部屋に呼び込んでいるらしい。
(全く、ミラの興味も大概にして欲しいよ……昨日もアルヴィンと何かしてたみたいだし……)
 何かって何だ、一体ナニをどこまでしていたのか。既にミラへの好意を自覚しているジュードは、やきもきとしながら枕に背を埋める。
 壁に立て掛けた枕に凭れたジュードは全裸だった。一体何が楽しいのか解らないが、君の肉体を確かめさせてくれ、と笑いながらミラに脱がされたのだ。少なからず肌寒く感じていた気分も、しかし局部的な熱によって消し去られていた。それはミラも同様なのだろうか。彼女も既に全ての衣服を実に清々しく脱ぎ去った後だった。
 剥き出しのジュードの脚は、ベッドにだらしなく投げ出されている。その股の間で、ミラは楽しげにジュードの硬く屹立したペニスを指でなぞっていた。
「そう、それを読んでいたら何だか無性に人に接したくなってな。丁度廊下で君と会えたのは僥倖だった」
「ミラ……それってもしかして、欲情した……ってこと?」
 幾ら人としての肉体を得ていたとして、精霊に性欲というものが理解出来るのだろうか。だが、少なくとも頬を紅潮させ、もじもじと股間をベッドに押し付けているミラは、明らかに高揚しているように見えた。
 果たして、ジュードに出会っていなければミラは何処の誰にそれを確かめるつもりだったのだろう。些細な疑問が頭に浮かぶも、しかし今はジュードにとって目の前のミラの肉体以上に大事なものなどなかった。
「ふむ……そう、なのかも知れないな。これが人の女としての欲情、であるのか、生憎と私には判断がつかないのだが……」
「うん、僕にも女性のことは解らないけど……」
「むう……そうだな、ならばレイアにでも聞いて……」
「っいや! レイアももう寝てるだろうし……ミラの感覚は僕には解らないけど、女の人の肉体のことなら多少は解る……かな。一応これでも、研修医だし、ね」
 ジュードは女と肌を合わせたことはないが、少なくとも医療に携わる者として女陰を目にしたことはある。難産に苦しむ女性のお産現場に立ち会ったこともあるし、子宮癌の手術で執刀医の手助けをすべく間近で見ていたこともある。
 無論それらは純然たる医療行為の対象であり、興奮の対象とはまた違う。それでも女性の肉体であることに変わりはないし、多少なりとも耐性はあるだろう。思ってジュードの言う先、ミラは喜色満面で勃起越しに彼を見上げていた。
「そうか! それは助かる。お願いするよ、ジュード……っん、むふっ、ぅ、」
「う……っふあ、ミラ!? な、何で舐めるの……って、く、咥えるのは……っ」
 何故だろう。話の流れ的にそういった行為をしろなどと口にしたつもりもなかったのだが、何故かミラは伸ばした舌でちろちろとジュードの裏筋をなぞる。下から上まで丁寧に舐り、亀頭の溝を舌先で穿ると透明な汁を零し始めた先端をぱくりと口腔に含んだ。
「っん、ふぅん……ふゅーどがわらひにおひえてくれるというなら……っん、ふ、むふっ、は……わらひもなにかおれいをふべき……っくひっ、らろ……?」
「っう、ぁ……ダメだミラ、くわえながら喋っちゃ……ぁっあ、そんな、奥まで……っ!」
 器用にミラは喉の奥まで使いジュードの全体を唇で激しく扱き上げる。空いた手のひらがそっと玉袋を揉みしだけば、腰が浮くのは抑えられなかった。
「いい……っミラ、僕はもういいから……っ! っは、ミラもほら……身体、こっちに向けて?」
 耐え難い射精感に苛まれながら、ジュードはミラの体躯を自身の方へと向けさせる。疑問符を浮かべたミラの顔は唾液と先走りでぐちゃぐちゃになっていた。それを見られなくなるのは残念だったが、このままされっ放しでは男の沽券に関わるというものだ。

 自分の顔の前にミラの尻が来るように跨がせる。それは同時に己の股間をミラの眼下に置くことになるが、それはそれで興奮の度合いも上がるというものだ。
「う……わ、ミラのここ、凄いことになってるよ?」
「っ……あ、余り見るんじゃない、恥ずかしい……っぁ、コラっ、息が当たって……っ!?」
 ミラの女性器はこれまで見たどれよりも綺麗だった。自身で弄ったことも他者に触られたこともないせいか、くすんでおらず鮮やかな紅色をしている。綺麗な割れ目はぬらぬらと内部から湧き出た粘液で濡れていた。
「っは、ミラ凄い……溢れて来るよ」
「……っい、ぁ……違うんだジュード、ッダメ、だ……ッァ、アァ、舐めるなぁっ!?」
 物欲しげにひくつく襞を舌先でなぞれば、ミラの肉体は敏感に跳ね上がる。逃げる腰を下から掴み、完全に尻に顔を埋めるように引き下げれば、ミラの太股は激しく震えた。
 割れた左右の外陰をざらざらとした舌で辿る。溢れ出る蜜を唇で吸い取る度にミラの口から抑え切れない吐息が零れた。思い切り舌を中に突き挿れる。途端に仰け反ったミラの身体が、面白いくらいに痙攣した。
「っぁ……あ、ッバカ、ジュードっ! それは……そ、ダメだ、っこんなの……ッア、ぁ、しらな……っぃ、」
「ほら、ミラ? お口がお留守になってるよ?」
 ミラの吐息が勃起に当たりむず痒くなったジュードは、その尻をぺちぺちと叩きそれを示唆する。快楽には従順なミラは、すぐさま武者ぶり付くようにしてペニスを口に含む。
「……っうぅ、んむぅ……ッひ、そこっ、それはやっ、いやだっ、っぁ、ハアっ、んっくぅ……っ」
「ミラ、口離しちゃダメだよ」
「っあ、ジュード、きょうは……ッはぁっん、随分と強気じゃ、っくっぁ、ないか……ッアっはぁあっ、っひゅぅんっ!?」
 必死に口腔でペニスを刺激しようとするミラがいじらしく、呼応するようにジュードもミラの性器への愛撫を激しくする。ふと思いつき割れ目の先端、愛液に塗れた萌芽に舌を這わせる。見る見る震え出す尻を固定して、軽く歯を立てれば、割れ目から噴き出た蜜が顔を濡らした。
「うっく、ぁ、……ッい、ぁあ、ダメだジュード、ちからがはいらな……っぁっくあッ、ひっぁぁぁっ!!」
 背を仰け反らせたミラは硬直し時折びくりと身体を痙攣させる。達しているようだった。そう思うとどくりとジュードの内で疼くものがある。
 堪え切れない。思うのはしかし、ミラも同じのようだった。
「じゅ、ジュード……ぁ、っあ……何なんだ、これは……どうすれ、ば……ッア、も……っ」
「ミラ、どうにかしたいなら、どうして欲しいかちゃんと言わないと、ね?」
 自らに余裕がないのを押して、ジュードはミラに問い掛ける。指で敏感に大きくなったクリトリスを摘んでやれば、止め処なく溢れた蜜がジュードの顔に降り注ぐ。
「ふっぅうんっ、焦らすな、ジュードッ……っもう、もうっ、」
「ん? ミラ?」
 当のジュードとて限界ぎりぎりであったが、飽く迄自ら動かないように萌芽を指で、愛液溢れる陰部を舌で刺激し続ける。 焦れたのか、幾度か腰を振ったミラは、思い切ったようにジュードの拘束を逃れた。そのまま身を翻し、自らジュードの下腹部に跨る。

 ジュードを見下ろす目は潤み、上気した頬は先走りと唾液で酷く濡れている。蕩けた表情は最早マクスウェルなどという大精霊のものとは思えない。
 膝を立て、両手の指で左右から女陰の割れ目を開き、ジュードに見せつけている。そこに居るのは、只の、情欲に溺れた雌犬だった。

「ジュード、ジュードっ! もう、限界だ……たのむ、から、お前の、……あっぁ、お前の……っ一物をぶち込んでくれ!!」
 叫び、ミラはジュードのペニスに手を添えると、扱き立てながら亀頭を陰部に押し当てる。ぬめる割れ目は直ぐには受け入れず、幾度が滑って刺激されるのがジュードには堪らない。
「いいよ、ミラ……っ力、抜いてっ!」
 下からミラの腰を掴み、一気に引き下ろす。僅かな抵抗はあったものの、強い締め付けに震える腰は進む以外の選択肢を許そうとはしない。
「っひ、痛……っジュード、やっ……いっ、一端抜いて……ッくれ、」
「うっ、あ……無理、ミラ、きもちい……っうぁっ!?」
「ッひ、ぅ……あっぁ、奥に……あたってる……ッくっふぁ、アァッ!?」
 反り返るミラの局部から一筋の鮮血が流れ出る。シーツに染みを作るそれに彼女の苦痛が窺えたが、それを気遣う余裕などジュードにはなかった。
「……っごめん、ごめん、ミラ……」
「いや、いい……ッ構わん、ぞ、ジュード……これは、っいっぅ、わたしが望んだ、こと、だ……っく、ぁあ!?」
 自身で言う通り、ミラの身体は次第に苦痛から別の感覚を見出し始めているようだった。きつきつに締め付けていたミラの内壁は、柔らかく潤みまた違った心地の良さを生み出していた。
 ジュードの上でミラの躯は激しく上下する。その度にたわわに実った乳房が揺れてジュードの視覚を刺激し続けていた。薄紅色の乳首は自分でも触ったことはないのだろう。導かれるようにして指先で尖ったそれを捏ね繰り回せば、鼻から抜けるような声がミラの口から漏れた。
「っふぅんっ、や、ぁ……それは、ダメだ……っぁ、なんだ、これは……っ」
「っぁ、すごい……ミラの乳首、すごい硬くなってる……」
「っひっゃぁあんッ、つねるなっ、あっ、コラ……ッア、っぁ、ああっ……っしきゅ、子宮、押し上げられ……っくぅっぉほぉぉッ!?」
 未知の感覚なのだろう。両手で頭を抱え、目を見開いたミラの躯は小刻みに痙攣している。絶頂を迎えているのか。そう思うと、ジュードの睾丸がどくりと脈打ち、欲望の解放を求めていた。
 再びミラの躯に手を添え、浮かせた腰を強く押し込む。肉体の最奥まで犯されたミラは、快楽の余りか赤子のように咽び泣いていた。
「っふ、ぁあ……ひっく、うあぁッ、あっふぅっう、」
「ミラ、ミラ? もう、僕もイクよ……っ!」
「ッひ、ぃっ、っぁ、ッア、奥、ふか……いっあっ、あぁぁっ、いっ……くぅ……ッ!!!」
 涙と涎を撒き散らしたミラは絶叫する。膣壁の締め付けに促されるようにして、ジュードも、果てた。

 全力で達したミラの躰は、ぐたりと力なくジュードの上へ倒れて来る。息を切らせながら、ジュードはその肉体を抱き締めた。
「はぁ……っは、ありがとう、ジュード、」
「……うん? ……ミラが、お礼を言うのは……おかしな、気もするけどね」
 果たして大精霊という存在は妊娠するのだろうか。流石に直接聞けはしないので、徐々に萎えつつある陰茎を未だミラの胎内に埋めたままのジュードは、疑問を口にしながら汗ばんだミラの背を撫でる。
「いや、私にも……人の快楽というものが、理解出来たようだ……。そうか、そうだな、……人間が身体を交えるのは、決して性欲の為だけではないのだな」
 ゆっくりと身を起こすミラは、泣き濡れた顔で静かに微笑う。
「不思議と満たされたような心地がする……きっと人はこれを味わいたくて、繋がり合うのだろう?」
 だから、ありがとう、だ。
 言ってくつくつと笑いを零す、ミラにはきっと敵わない。達成感の中に何処か苦さを残しながら、ジュードは吐き出した欲望を美しい身体から引き抜いた。



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