ふた☆みく 01

「っあ、っっああ、あっ♪」
  湿った路地裏に甘く小さな声が、断続的に響いている。まるで歌うように、上がっては下がり、メロディを奏でるかに放たれた音は、しかし到底曲とは言えない隠微な響きに満ちていた。
「っや、ぁ、……ッアア、マスターっ、ますたぁ、やぁれすぅ……っやぁぁっ♪」
 嫌だと言葉にしている割には、語尾が甘く蕩けている。実際彼女の顔も、声も、躯も、疾うに溶け果てて他者には見せられないものとなっていた。
(……あっ、きもちぃ……っミク、みくっ、こんなハシタナイ……のにぃ……っ!)
 はしたないと思いながらも彼女にはどうすることも出来ない。人気のない路地だった。猥雑な繁華街のビルとビルの間、彼女は居た。
 時折、路地に面した通りを歩むカップルの声が聞こえて来る。盛りのついた彼らは一本道を入った先に居る彼女のことなど気にもせず通り過ぎて行く。それを幸いと言えるのか如何か、彼女には判断が付かない。
 今の痴態を見られたくはない。しかし誰かが来ないと、彼女の快楽に終わりが訪れないのも事実であった。
(っあ、……っああ、誰か、たすけ……テッ、っああん、でも、でもぉ……)
「……ひゃぁんっ、見られちゃ、ぁ、……っ見ちゃダメぇ、マスター、ますたぁっ、たすけ……っやぁぁ、いっ……!!」
 からだの内側を抉る快感に、仰け反る頭が壁にぶつかる。緑の髪に包まれた後頭部がコンクリートに擦りつけられ、削れそうになるのも構わずに絶頂に近付く躯は無軌道に跳ね上がった。
(っああ、せつな、せつなイ……誰か、誰かぁ……っ触って、さわってェ……っ♪)
 白い肢体が宵闇に淫らに浮き上がる。圧倒的に下肢から湧きあがる快楽を、しかし彼女は自らでは如何することも出来ない。細い両の腕は頭上に縫いつけられたまま、彼女の身を拘束していた。
 手首を縛るは頑健な手錠である。軽いラブプレイなどで使用するような可愛らしく装飾された拘束具ではない。銀色のそれは完全に犯罪者を捕える為の手鎖だった。両手首に嵌められた手錠の、その鎖は彼女の凭れた外壁を伝う排水管に通されている。
 彼女が仰け反る度に、鉄錆の浮いたパイプは鈍く軋んだ。頑丈な手錠はどれだけ彼女が暴れても壊れはしないだろう。しかし古びた排水管と、そして何より銀の輪が喰い込んだ細い手首が、肢体がしなる度に悲鳴のような軋みを上げていた。
「……っひぁ、も、やなのぉ……ッア、アア、きもち、いい、からぁ……ぁ、あ、ガマン、できな……っ!」
 ひくりと下腹が震え目の前に前兆のような白い星が走り出す。見知った感覚に幾度も海老反りになった彼女の手首から白い粉が舞う。僅か剥がれた塗装から見える金属質な骨組みが彼女の性質を顕わにしていた。
 人間ではない彼女は、しかし人間と同じく、寧ろそれ以上に人としての悦楽に溺れていた。
――ブブ、ブブブブブ……
 彼女の下半身から聞こえる音は、身体が反り上がり下半身を前に突き出す度に大きく響く。機械の身でありながら、人間と同じように作られた秘部は柔らかく潤んでいた。
  悦を訴えるは雌ばかりではない。
「きゃうん……っくぅん、あぁ、だめぇっ、……ミク、みく、おんなのこなのにぃ……ッアア、ミクのオトコノコッ……きもちよく、なっちゃうぅ……っ♪」
 飽きっ放しになった口から涎が垂れる。それと同時に、下腹部から垂れ落ちるものがある。先刻から粘つく液を零している蜜壺ではない。その上にそそり立つ、女体として在り得ざるそれは触れられもしないのに、透明な先走りを吐き出していた。

「うっわ、あれ何だよ!?」
「え? うっそ、やだぁ……あれって初音ミク? 何でちんぽ生えてるのよ、気持ち悪〜ぃ!!」
「っっひ、ぃぁ……っ!?」
 近道を通ろうとしたのだろう。腕を組んだカップルが彼女の居る路地裏に脚を踏み入れた。びくりと驚いたように佇んだ二人は、けれど好奇の視線を彼女に向けて来る。
 好奇と嘲笑と、それから侮蔑と。男の方は前者の、そして女は後者の割合が高いようだ。遠巻きな二つの視線を受けて、彼女はびくびくと全身を震わせた。
「っい、やぁぁあ……みく、ミクのはしたないトコ見られて……っ」
 彼女――初音ミクと呼ばれるヒューマノイドは、女体にも関わらず雄としての象徴を身に宿した彼女は、
「い……っく、いく、イクイクいくの、いっちゃうぅ――っ!!」
 路地裏に裸体で放置され、胎内にバイブを仕込まれ、手錠で壁面に拘束されたミクは、涎と愛液を垂れ流しながら、禍々しく猛った肉棒から勢い良く精液を噴射したのだった。

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