ふた☆みく 03

 男は酷く憤っていた。お気に入りの店を出入り禁止になったばかりでなく、多額の賠償金まで払わされたのだ。それは腐っても仕方がないだろう。
 足取りも荒々しく、繁華街を突っ切る。男の憤怒の表情に、対向するカップルや酔いどれたサラリーマンが危険物を見るかに彼を避けて行く。実際、太平楽な人々の顔を見るとむしゃくしゃした男は殴るか、さもなくばもっと酷いことを仕出かしてしまいそうだった。彼らは勘が良く、そして運が良かった。
 自らの顔が元々温厚とは百八十度逆を向いていることは解っている。険しい顔を隠そうともしないまま、男は知らず人の少ない方、少ない方へと、繁華街の裏路地の方へ足を進めていた。
 三十路を少し回り婚姻もしていない男の唯一の愉しみが、風俗であった。それも普通のそれとは違う。此処は数多の風俗店が立ち並ぶ有数の歓楽街といえど、彼の性癖を存分に満足させる店は実の所多くはない。その馴染みの店で、確かに今日は羽目を外して散々なことをしてしまった。自覚はある。
 だからといって、出禁にすることはないじゃないか。

 舌打ちしながら一層人気のないビル裏に迷い込んだ時だった。
「たすけ……ッやあぁぁっ!! アァッ、いく、イクっイッちゃうの、ふおぉぉぉおっほぉ!!??」
 角を曲がった先から唐突に響いて来た絶叫に、瞬間怯んだ男は足を止める。女の悲鳴、それにしては少し人工的な違和感がある。一本道を外れれば無法地帯と言っても良いこの街で、女性の悲鳴など珍しくもない。通報などすれば己の身が怪しまれるだけだ。どうにかしたいのならば、正義感溢れる輩がどうにかすれば良い。君子危うきに近寄らず、だ。
 しかし男が立ち去らなかったのは、聞こえて来た嬌声が人工的なそれ一つだけだったからだ。普通こういった状況というのは、悲痛な悲鳴と下卑た男たちの声が溢れているものだが、しかしここには狂気にも似た歓喜を孕んだ女の声しかない。
「あひゅっ、あひっぃ、出るゥ……まだ、とまりゃないのぉぉっ!!」
 思わず足を進め曲がり角の先に視線を遣る。そこには、コンクリの地面に仰臥し、自ら噴出した精液に塗れた女が喘ぎ声を上げ絶頂を迎えていた。


 それが初音ミクであると男にも直ぐ解った。ボーカロイドと呼ばれる機械人形であり、地面に広がった長い緑の髪の毛や、少し幼く作られた貌など、特徴的なその様子を見間違う筈がない。
 男はそういったヒューマノイドの類に興味はなかった。しかし目の前に居る彼女には少なからず関心を抱く所があった。彼女は全裸だった。乳房も局部も顕わで、ぬるぬると己の体液で全身がぬめっている。不可解なのは彼女の股間についた男根だ。下半身の奥では女陰がひくつき粘り気のある蜜を垂らしているのにも関わらず、猛り狂うペニスが精液を放出している。
 両性具有、所謂、ふたなりという奴か。
 思わず地面に転がる彼女の元へ立ち寄ろうとした男は、はっと気付き足を止める。慌てて周囲を見回したのは、彼女を監視する目を警戒してのことだった。人型アンドロイドは今は生産中止となっていると聞く。入手すら困難で高額の値がつくそれがこんな路地裏に、性的な趣向を施された上で打ち捨てられている訳がない。大方、何処ぞの変態の高度なプレイとでもいう奴だろう。
 下手に関わるべきでない。踵を返そうとする男の耳は、しかしながら、女のか細い嘆きを拾ってしまった。
「う……ぁ、……すた……マスター、ますたぁ……たすけ、て……ひぅ……ッステないでぇ……っ!!」
 気が変わった。足を止めた男は、更に慎重に周囲の気配を探る。他に人の居ないのを確認し、男はゆっくりと彼女の傍らに立った。
「っぁ……誰、ますたぁ? ますた、ミクの、ッアぁ、ミクのイッちゃうとこ、見て……っひゃうゥん……ッッ!!」
 光のない彼女の瞳は、開いているにも関わらず男の顔を認識出来ていないようだった。それが快楽に因るものなのか、本格的に壊れかけているのかは解らない。後者だとすれば実に残念なことだ。これだけ面白い玩具も、そうそう見付からないだろうに。
 痴態を晒す彼女を見下ろしながら、男の口元に酷薄な笑みが浮かぶ。彼の性癖はそこに体現されていた。

 彼の嗜好は女の歪んだ表情を見る所にある。泣き叫ぶ声、被虐的に震える肢体も魅力的であるが、何より重要なのは貌だ。肉体的にも精神的にも虐め抜かれ、惨めにのたうち涎と鼻水でどろどろになった表情を惜し気もなく晒す。それが、好い。
 重要なのは女が悦んでその屈辱を甘んじることだ。そうでなければ単なる嫌がらせ、犯罪の域に至ってしまう。実際、彼は先刻通い詰めていたSM倶楽部で出禁を食らった所である。大枚叩いてフリーコースを選択し好きに出来るかと思ったが、少し攻め立てたくらいで最後にはM嬢が泣いて喚いて訴えるなどと散々に騒ぎ、向こうも後ろ暗い商売故に警察沙汰にはならなかったものの、逆に怖いお兄さんたちに絞られ有り金全部取られて終わった。酷い話である。
(子宮押し潰したくらいで泣いてんじゃねーよ、クソが……こいつは人じゃないんだよな? なら、ナニしても良いってことだろ?)
 にやりと口の端を上げる男の下、地面にのたうつ彼女の目にはそれすら映っていなかった。


 ヒューマノイドの特色として、己の好みにカスタマイズ出来るという利点がある。恐らく彼女もそうして、持ち主に好き勝手されたのだろう。肉体は女性そのものである筈が、股間に肉棒を生やされ、更には性感さえも敏感にさせられているようだった。人間では有り得ないくらいに噴き出す精液に塗れ、涙を零しながらも絶頂する度に歓喜の笑みを浮かべる彼女は、まさに性奴隷として調教されつくした感があった。
 一体何時間こうして放置されているのだろう。少し離れた所に転がっているバイブは女の膣液でぬめり、つい先刻まで彼女の胎内で荒れ狂っていた様子が窺える。手首に嵌められた手錠、見ればビルの外壁に添わされたパイプ管が中途で無残にも折れている。そこに長時間、彼女が拘束されていたことは測るに難くなかった。
「っや……っひゃぁぁん……ッッイヤ、これいじょ、イクのやぁアあ……っ」
「っは、何言ってやがる……射精すんの気持ち良いって顔しやがってよ?」
 悶える彼女の肢体に、男は足を伸ばす。革靴に包まれた足先で赤黒く猛る剛直をなぞれば、上体を反らせて啼く彼女は漸く彼の存在を認めたようだった。
「……ッイ……ぁ、え? だ、ダレですか……っひっぁひゅぅぅうう!?」
「誰だってイイんだろ、気持ち良ければ、よ!」
 足裏に力を入れる。踏み付けられた彼女のペニスは、中に溜まっていた精液を勢い良く吐き出し悦びに震えていた。
「ッいっはひぃぃ……っい、イタイッ、いたいでひゅぅウっ、あっひゅぅぁああァアッッ!!?」
 痛いと言いながらも彼女は喘ぐ度に涎を撒き散らし、太股を痙攣させて愛液を垂れ流す。踏まれた肉棒は流石に血流を止められ、幾分か力を失っていたものの、未だ悦楽の余剰にぺちぺちと腹を打っていた。
 別段男は、こうした人体改造に興味はない。同性の生殖器など見ても反吐が出るだけだ。しかし今こうして足で刺激しているそれは、彼女の精力の表れであるかに思え中々面白い。大き過ぎない所も良かった。こういった両性具有に改造されるアンドロイドは大概、性器や胸部を人外レベルに肥大化させられていることが多い。
 それが彼女は、少なくとも男の一物よりも短いものであり、胸のサイズもデフォルトの大きさであるらしい。とはいえ、手のひらより少し大きいくらいのそれに対して、乳輪のサイズは明らかに大き過ぎる。そこだけは減点だったが、腫れ上がった乳首の勃起具合は悪くなかった。
「あっひゅゥッ、つぶれ……つぶれひゃいまひゅぅうっっ!!」
「ん? 何だ、潰して欲しいのか。仕様がない雌豚だな」
 浮き出た裏筋を靴の底でなぞり、幾度目か知れない勃起を始めるその根元に更にきつく爪先をめり込ませる。簡単に欲情した彼女の肉棒は反り返り、紅に染まった先端に物欲しげな露を浮かべていた。
 男はそのまま足を添わせ、全開になった彼女の脚の間にある玉袋を靴底で探った。
「っっひっぃや……ッやめっ、ぁっあ、ぁ……しんじゃウ……っミク、しんじゃぅのっぉおッ!?」
 ぐりぐりと睾丸を爪先で探れば、泣き叫びながらも彼女のペニスは前後に激しく揺れ、白いものの混じったカウパー液を撒き散らしている。下の口から溢れる涎で靴が汚れるのも構わず、男はぐりぐりと袋を刺激する。右に、左と足を移動させ嬲るように吊りあげた目で眺める先、歪んだ表情を隠しもせずに彼女も男を見上げていた。
「……ぁ……っう、アァ……ッ」
「いいぜ、死ぬほど気持ち良いこと して欲しいんだろ?」
 酷薄な笑みで見下げる彼女は、だらしなく開いた口から微かに零した喘ぎで期待を示していた。足の下で袋に溜まった精液が射精を待ち望んでぼこぼことせり上がっている。
「……っぅ、くぅ……ッシテ、ほし……ぁあっ、キモチイイこと、してぇっ……!!」
「っは、じゃあ、死んじゃえ、……よっ!!」
 声を荒げながら男は脚に力を込める。完全に潰す訳ではない。けれど最大級の苦痛と最上級の悦楽を与える強さで、慎重且つ大胆に踏み抜く。
「……ッイっひゅぉぁ……っぁアッあっ、ひゅぅっ……っふぉっほぉぉっでりゅぅぅ、ぜんぶ、ぜんぶでちゃゥぅうのぉ……っっ!!!」
  鮮紅色に染まった亀頭が膨らみ、噴出した精液が彼女の上半身を濡らす。余りに激しい絶頂に、顔に手を遣り堪えようとする彼女だが、しかし指の間から白目を剥いた表情を見せていることに気付いてはいない。
 唇は戦慄き閉まることを知らず、絶え間ない嬌声が溢れ出ていた。既に理性はないのだろう。人工生命でも意識を失うことがあるのだろうか。思いながらイキ顔を晒す彼女に、男は高揚を抑え切れない。
「っうっぐぅ……っは、ひゅぁ……イクッ、の、もっ、おチンポもオマンコもイキしゅぎて……しにゅううぅぅ……ッ」
 全身を突っ張らせて胎内の液体を全て放出した彼女は、それきりぴくりとも動かず淫らな体勢のまま気を失ったようだった。
「……っは、これは中々、イイ拾い物だな」
 随分な玩具を手にしてしまったものである。ほくそ笑む男は、既に誰の目にもつかず彼女を運ぶ算段に頭を悩ませていた。

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