ふた☆みく 05

 部屋に帰るとそこに居たのは雌犬だった。
 男は一瞬玄関口で立ち止まり、しかし気に掛けることもなく直ぐに部屋に入った。今日も安い給料で終電ぎりぎりの時間まで働かされたのだ。残業代が出るだけマシではあったが、心身に溜まる日々の疲労は金で解消されるものでもない。
 駅前で半額になっていた弁当をテーブルに置き、手を洗うのもそこそこにがっつく。一息ついてふと視線をやれば、ベッドの上で涙目になった雌犬が見えた。
 拾ったのは女だと、少なくとも男は認識していた。正しくは女を模した機械人形だった。初音ミク、VOCALOIDと称されるアンドロイドの内の一体を、彼は昨晩拾ったのだった。
 しかしそこに居るのは雌犬としか称しようがないものであった。
「あ、あの……ま、マスター?」
 犬の癖に喋るものだから腹立たしい。食後のコーヒーを用意しながら男が半眼で見遣る先、ベッドの上に正座した雌犬はおどおどと男を見返して来る。
「あ、あの、私……」
 何故そこまでしておいて喋るのか。苛立って机上にマグカップを叩き付ける。白いその角が僅か欠けてフローリングの床に転がった。中身のコーヒーが飛び散るのに怯えたのか、雌犬はびくりと肩を竦めて下を向く。それで良い。
 男は立ち上がりベッドへと近寄った。一層怯えた風の彼女は、萎れた緑の髪の合間から媚びたように目を向けて来る。従順なのは良いが従順過ぎても面白味がない。男の趣向に合わせるのには一体如何調教していくべきか。人でないならば多少の無茶も利くようだが、しかし調べたところによると男の拾った初音ミクはどうやら初期に発売されたプロトタイプのようらしい。下手に壊せば替えのパーツも入手し難いだろうと考えると、自然慎重にならざるを得なかった。
「っひ……や……」
 彼女の細く白い首に手を伸ばす。身を引こうとするのを許さず、その女が雌犬たる所以のものに手をかけた。
「っふん、自分から付けるとは、とんだ変態女だな」
 男が今朝仕事に出る前にベッドの脇に置いていったそれは、今や彼女の首につけられている。
 さして珍しいものではない。大型犬にも使えるような大きな首輪だった。真っ赤な首輪は彼女の首に巻きつき、まるで自然にそこにあったかに定着していた。
 置いて行ったのは男自身である。しかしまさか、自ら身に着けるとは思わなかった。正に犬である。雌犬は首輪をし、薄汚れたシーツの上に正座して目尻を紅く染めて男を見つめている。首輪を引っ張れば僅か苦しげに眉を顰めるのが憎らしい。
「おい、犬。お前は何だ?」
 低く問いかける。息が苦しいのか喉を詰まらせ、必死に上を仰ぐ姿が滑稽だった。ロボットの分際で呼吸を必要とする訳でもあるまい。
「答えろ」
 命令をすることには慣れていた。男が荒い口調で問えば、怯えた体の雌犬は震える唇を開く。
「……あ……ワタシは、歌唱型対人ヒューマノイドの……」
「そんなことを聞いてるんじゃねーよ」
 更に首輪を上に吊り上げる。半ば膝立ちになった犬は、涙目になりながらも従順に言葉を綴ろうとする。調教されるのには慣れているらしい。こちらの気に入る答えを探し出そうと必死に頭を働かせているのが目の動きで解る。いじらしいとも思うが、犬の癖に生意気な、とも思う。
「ぅ、あ……ますたぁ、……ワタシは、マスターに、拾われて……」
 マスター、という呼び方が引っかかる。男は知らず顔を歪めていた。恐らくそれは前の持ち主に対する呼び名だろう。中古であることに拘りはしない。しかし未だ前の男に気を遣っている女などに価値はないに等しかった。
 元から険しい顔付きの男は、多少思考を重ねているだけでまるで激怒したような相貌になる。顔色を伺うようにしていた雌犬の顔面に恐怖が過ぎり、僅か震え始める。無様だった。
「マスター? マスターって誰のことだ?」
 顰めた声で問いかける。雌犬は震えながらもきょとりと目を瞬かせる。男を自らの拾い主であり、飼い主となってくれるのだと、マスターであると信じて疑わない目だ。
 その純真さは不快であったが、同時に、飼い慣らしていくだけの余地を感じさせた。
「え……あ、あの、貴方が私を拾ってくれテ……だから、私の、ます……ご、ご主人様、になって、くれますカ……?」
 喉を抑え込まれ途切れ途切れに、雌犬は訴える。今まで主人をマスターと呼んでいた癖に、動転して一体何処からご主人様などという言葉が出て来たのか。
 しかしその響きは中々甘美なものにも、思えた。
「……いいだろう。ならば俺に忠誠を誓え。絶対服従の雌奴隷になるのなら、飼ってやってもいい」
「ふぇ……ぁ、あ、私……ご主人様、どうか私を、卑しい雌豚を、飼って、クダサイ……ッ」
 男が首輪から手を離せば、雌犬の身体は力なくシーツに落ちる。当然の如く彼女は全裸だった。拾って来た時のまま、服など纏っていない。流石に全身何やらの汁でべたべたになっていたから、シャワールームにぶち込んで軽く流してやりはした。しかし固定した相手はいない為、部屋に女物の服などないのだから、全裸で放置しておくのは当然の処置と言えた。
 シーツに仰臥した彼女は、完全に主人に屈服した犬のように、腹を見せていた。その肉体は昨日見たものと変わらない。小ぶりな胸についた不似合にでかい乳輪、細い腰と肉づきの良い尻、そして女の躰に不釣り合いなそそり立つ肉棒。
 所謂ふたなり、両性具有の肉体を持ち合わせた彼女は、その酷く猛らせたペニスを隠そうともせずに男の目に晒していた。この部屋に入ってから男がしたことは、彼女を罵り、首を引っ掴み、忠誠を誓わせながら放り出しただけだった。
 それなのにこの雌犬は欲情しているようだった。心の底から変態のマゾ奴隷である。
「……口だけじゃ解らないな。態度で示して貰わないと」
 精々が冷たい目線を向けてやれば、彼女は悲痛と期待の入り混じった顔で男を見上げた。泣き濡れた顔のまま、自らの両手を下半身へと持っていく。赤黒く筋の浮いたペニスを擦り、喘ぎの混じった呼気で泣き叫ぶ。
「……っァ、あ……ごしゅ、ご主人様ぁ……みくの、ミクのからだイジって、……っあ、っぁ、めちゃくちゃにしてクダサ……ッィ、っひゃぁぁあん!?」
 余りにも惨めったらしいので、男は雌犬の言葉を遮るようにして脚を振り上げ、ベッドの上に寝転んだ彼女の股間を思い切り踏みつける。滾ったペニスの感触は靴下越しにも熱く、硬く、彼女の快楽を伝えて来る。ヒューマノイドとはいえ、痛覚は認識するように出来ているはずだ。それすら快感に変えてしまうとは、恐ろしく飼い慣らされたものである。これは彼女の元の持ち主も余りに調教され過ぎてしまったが故に、飽きたのではないか。そう勘ぐりたくなる程の被虐性である。
 放出を待ち望んで膨張したそれが男の足の裏でびくびくと痙攣する。同性の性器など男とて弄って楽しいものでもないが、彼女の反応を見るのは面白い。弄っているのは男性器であるのに、男のシーツには女性器から溢れ出た蜜が染みになっていた。
「うっくぅん……いっ、ぁ……イキ、まひゅ……っぁっア、ごしゅじんさまぁ、ミクのイクとこ、見てくださ……っぁっぁ、ッアアぁんっっ!!?」
 イク、イク、いくっ、男が足の裏に力を込めるだけで雌犬は酷く鳴いて、白い肢体に赤く生える首輪を見せつけるように仰け反り、生臭い白濁を自身の腹にぶちまけた。
「あっひ、……あひゅ、ぅあ……っは、」
「……っク、ソッ」
 絶頂を迎えた後の虚脱感に襲われている彼女を見ている内に、当然の如く男の股間にも熱が滾る。無様な雌犬に対する苛立ちが内部で滞り、行き場を失くして下半身を支配しているようだった。
 儘ならぬ手の動きでベルトを外し、きつく脱ぎずらいスーツのズボンを床に落とす。ボクサーパンツの中から取り出した怒張は、彼女を攻め立てようと凶悪なまでに膨れ上がっていた。
「っ何落ち着いてんだ、っよ!」
「ッひぎゅゥっ!?」
 腹立たしさも一入に、緩みきった女陰に肉棒を叩き込む。本物の女の如くうねるそこは潤み、脈動して男のペニスを包んで来る。絶頂を迎えた彼女の胎内は本物以上に激しく男の快楽を責めたてた。
 女の膣を味わうのは久しぶりだった為に、男もそう長くは持ちそうにない。抽挿をするたびに女は善がり、それにつけて膣壁を締め付けて来るものだから、幾度か擦る度に息を吐いて気を紛らわせなければならなかった。
 緩々と擦り上げ、蕩けたところを強く突き上げる。完全に緩んだ顔で涎を垂らしていた女は、強く貫かれ白目を剥き泣き叫んだ。
「っいっきゅぅぅッアッア、っらめぇっ、ッヤア、またイクっ、の、っぁっああ、アァあっんっっ!!」
「勝手にイこうとしてんじゃねぇって」
「ッッやぁぁン、ひっ、おちんぽ……ッ、おちんぽ握っちゃヤ……っやぁ、でる、デるのにっ、ッイク、いく、こわれちゃ……ッひゅぅぅぅうんっッ!!!!」
 彼女の股間で膨れ上がった一物を、男は根本を握り潰さんばかりに掴む。解放を求めてびくびくと震えるのが手のひら越しに伝わって来た。
「ダメだろ、お前は奴隷なんだから、何をするにも許可が必要だって、もう解ってんだ、ろっ!?」
「っあふっうぅッ、あ、しきゅ、押し上げれんの、きもちイ……ッアぁ、も、ごしゅじんさまっ、も、イカせ……てく、っぅダさい……ッあ、あぁぁんっ!!!」
 奥へ突き入れれば限界の近い彼女の内壁が強く締め付け、うねうねと男の射精を促すかに刺激を与えてくる。限界なのは男も同じだった。
 男根の根本から手を離し、彼女の太腿を両手で持つ。脚を折り、膝を額に付かんばかりに押し上げれば、不自然に躰を折り曲げられた彼女は苦痛の悲鳴を上げる。
冷たく尖った目で完全に阿呆面になった彼女を見下ろす。男自身も脚を伸ばし、腕立ての容量で身体を前後させる。先走る亀頭が子宮に押しつぶされる感触が堪らない。
「っいいか、イクぞ、このまま中に……ぶちまけてやるっ!」
「……ッア、ああ……だして、クダさ……ッひ、やんっ、……みくのっミクのなかにぃっ、おまんこにっ、せいえき、くだしゃいぃっあっひゅぁぁああんっ!!!!」
 吐息を荒げ男は勢い良く彼女の中に射精する。膣内と子宮全体で精液を味わった雌犬は、盛大に喚き散らしながら、精液と愛液を噴き出しながら、果てた。

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